企業における災害・水害対策ガイドブック         

地震や台風、津波などによる災害・水害で影響を受けた企業や被害を受けた従業員が在籍する企業では、その対応支援のために、いくつかの健康管理上の注意事項について情報を持っていることが重要であると考えられます。
企業における被災地支援に関係する健康管理上の注意事項をまとめました。(2024.01更新)

感染症対策

災害時における感染症対策

被災現場・避難所等で発生しやすい感染症は以下の通りです。

 

感染症に関する注意事項

  1. 手洗いやうがいを徹底しましょう
  2. 水や食料摂取について、安全なものを選ぶように注意しましょう
    • 生水は飲まない、浸水した井戸水については水質検査後まで飲水はしない
    • 食料はしっかり加熱してから食べること
    • 汚水に接触した食品は思い切って捨てる
    • 長時間停電した地域では、冷蔵庫に入っていた食品は使用せずに廃棄する
    • 調理器具については、よく洗浄し、煮沸あるいは熱湯消毒をしてから使う
  3. 低体温リスクに気を付けましょう
    溺水では低体温も問題となります。特に小児、長時間洪水に浸かっていた人で問題となります。避難所がなかったり、洪水や雨にぬれたりすることで、呼吸器感染症のリスクが増大します。
  4. 復旧作業等における注意
    復旧作業に参加される方は、できるだけ肌の露出の少ない服装で、ケガをしないように長靴、ゴム手袋を付け、粉塵を吸い込まないようにマスクを着用するようにする。
    けがをしたら、傷口をきれいにする。
    傷口が赤くなったり、腫れ上がったり、膿が出てきたら、できるだけ早く治療を受ける。
    ヘドロ等を扱う際や転倒等による外傷に伴う破傷風の感染については適宜現場で医師に相談のこと。

 

(参考)破傷風

破傷風は、土の中にいる破傷風菌が傷口から感染・増殖し、毒素によって発症する感染症です。
感染してから症状が起こるまでの潜伏期間は3日から3週間くらいと言われています。
特徴的な症状は、「あごのこわばり」で口が開きにくくなります。加えて、「ものを飲み込みにくい」、「けいれん」、「呼吸困難」などの全身の症状をきたすことがありますので、医療機関への早期受診が必要です。
※2011年の東日本大震災の際には、10例の破傷風症例の届出があり、すべて震災当日に受傷した被災者
 だった(年齢中央値67歳;範囲:56~82歳)

破傷風は、発災直後の受傷によることが多く、発災後3週以内に発生しやすいが、瓦礫処理作業などにより創傷を負った方に対しても考慮すべき疾患です。
ワクチン(破傷風トキソイド)は受傷者に対して接種され、必要に応じ破傷風特異的免疫グロブリンがワクチンと共に投与されます。予防策としてはワクチンが有効ですが、避難所で予防として全体に集団的に接種することは通常行いません。一方、創傷を負う可能性がある作業に従事する場合には接種が強く推奨されます。

ガラスなどのけがや、トゲが刺さったりした場合は、一旦作業を中止し、傷ついた場所を清潔な水でよく洗浄し傷が汚れた環境に直接さらされないように、絆創膏などで保護しましょう。
傷が深い場合やトゲなどが残ってしまった場合、傷口が化膿した場合、破傷風を疑う症状がみられた場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。作業が終了したら、石けんと流水でしっかりと手を洗いましょう。
※手洗い用の水が確保できない場合は、ウェットティッシュなどで汚れを落とし、速乾性刷り込み式アルコール 性消毒薬を使用してください。

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メンタルヘルス対策

災害時におけるメンタルヘルス対策

災害に伴う健康リスクには、直接の溺水に加え、災害に伴う心的外傷も考慮する必要があります。
災害によって心理的に強いストレスを受けた場合、様々な心身や行動の変化が起こります。それらは多くが異常な事態への正常な反応であり、そのことを正しく理解し、周囲の人や家族とよく話をしたり、問題を共有したりするようにします。
その上で、無理をせず、きちんとした食事をとることを心がけ、睡眠不足にならないように注意します。
お酒やたばこ、嗜好品に頼るのはよい対処とは言えません。

心身の反応

災害等によってトラウマティック(心的外傷)ストレスに起因した心身の反応が起きることを知っておきましょう。

  • 感情・思考の変化
    信じられない出来事が起こったために茫然としてしまい、何がどうなっているのか、何をどう考えればよいのか、自分自身が直面した現実を受け入れられないといった心の状態になったり、悲嘆、落ち込み(うつ)、感情が麻痺したようになり混乱することがあります。

  • 身体の変化
    不安、恐怖のために眠れなくなったり、頭痛、腹痛、咽の渇き、寒気、吐き気、湿疹、けいれん、嘔吐、めまい、胸の痛み、高血圧、動悸、筋肉の震え、歯ぎしり、視力の低下、発汗、息苦しさなどが出現したりすることがあります。

  • 認知・感覚の変化
    方向感覚を喪失したり、注意力が続かず集中することが困難になったりすることがあります。過度の緊張状態や過覚醒、決断力の低下、身構え、悪夢、災害や事件のことが頻繁に頭をよぎることも多くみられます。

  • 行動の変化
    睡眠リズムの変化による睡眠障害、食欲不振や逆にたくさん食べ過ぎたり、薬やアルコールへの依存、なかなか行動がスムーズにできなくなったり、社会から引きこもったりすることも見られます。

回復のための心構え(被災した方々への対処)

  1. 恐ろしい災害や事件を経験した後で心身の変化や動揺が起こるのは自然な反応であることを理解しましょう。
  2. 投げやりになったり、やけをおこして状況を悪化させないようにしましょう。
  3. しばらくは一人にならずに、家族や職場の仲間など安心できる人たちと過ごすようにしましょう。
  4. 食事・睡眠・休養など規則的な生活を心がけましょう。
  5. 一人で悩んだり、抱え込まずに、周囲の人や専門家に相談しましょう。
  6. ストレス反応からの回復は必ずしも直線的ではなく、行きつ戻りつしながら回復していくものであることを知っておいてください。
  7. 過度の飲酒は控えましょう。

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熱中症対策

洪水被害における熱中症対策

夏場に被災した場合、復旧等の作業時にはかなり汗をかくこと等も起こります。
暑熱環境への適応後に雨が続き、比較的涼しい気温に慣れていると再度気温が上昇した場合に、熱中症のリスクが高まります。

予防法

  • 日々のコンディションを保つ
  • 適度な運動で身体を慣らす
  • 水分補給を心がける、水分を携帯する
  • 尿に気をつける(尿量や回数の減少、色に注意)
  • 日傘や帽子を使う
  • 室温を適切に保つ
  • 生活習慣病等を管理する
  • 暑熱環境で作業する場合
    暑さ指数(熱中症指数=WBGT(Wet Bulb Globe Temperatureの略)を可能であれば測定し、評価に基づいて作業内容や時間を調整する。
  • トイレを我慢しない。利用しやすいトイレを確保する

対処法

熱中症の症状・重症度は現在では3段階で考えられており、ご自身や周囲の方が体調不良を訴えた場合の対応の参考になります。

重症度判断の目安と対応例
(熱中症予防に関する緊急提言 - 日本救急医学会より引用・改変)

ふらふらするようなら、座るか、横になるようにして、転んだり、倒れたりして怪我をしないようにしましょう。また、誰かが自分で水も飲めない状態であれば直ぐに医療機関に連れて行ってあげましょう。また、応急措置によって、症状が回復しても、安定しているわけでないので、帰宅後にも完全に回復するまで、経過を慎重に見ていく必要があります。

参考文献
株式会社健康企業 代表・医師 亀田高志先生作成資料
洪水被害に関係する注意事項より

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寒冷地対策

寒冷環境での作業に当たっての注意

  • 毎日、無理のない作業計画を立てましょう。
    特に身体に負荷のかかる業務は1日の暖かい時間帯に計画しましょう。
    2人以上で作業し、寒冷ストレスの兆候がないかお互いに確認しましょう。兆候があれば作業を中止しましょう。

  • 寒冷による不調の兆候には、四肢のしびれ、ヒリヒリ感、痛み、青みがかった皮膚の変色などがあります。
    寒いところでの作業に慣れていない初期は耐性がないことを理解して、慎重に対応しましょう。
    持病がある人は特に注意しましょう。
    つよい疲労感や体調不良がある場合には、作業に加わらないようにしましょう。

  • 脳卒中、心疾患、糖尿病、甲状腺機能障害などの治療中の場合に健康障害のリスクが高まります。
    ※寒冷曝露や急激な温度変化(ウオームショック)が脳心疾患を引き起こします。

  • 寒冷により体は暖を保とうとし、この過程で血管が収縮します。血管の収縮は血圧の上昇を引き起こし、心臓に負担をかける可能性があります。

  • 作業中はなるべく風にあたらないように工夫しましょう。
    可能であれば、作業エリアを隙間風や風から遮断してください。
    ※寒冷効果(強い風が吹くことで実際の気温よりも寒く感じること)に注意が必要です。
     例えば、気温が約4.4℃でも風が強いと気温が約-2.2℃にいるような感覚になるといわれます。

  • 服装に注意する
    靴下や手袋、衣類など濡れた衣類はすぐに着替えましょう。
    寒さによるストレスを防ぐには、適切な服装をすることが非常に重要です。
    綿は濡れると保温性が低下します。ウール、シルク、フリースなどの合成繊維は、濡れても保温性を維持します。
    ゆったりとした服を少なくとも 3枚重ね着してください。重ね着することで断熱効果が高まります。
    体にぴったりとフィットする衣服は、血液循環を悪くする可能性があります。
    ゴーグル、手袋、帽子、フード、マスクの使用も有効です。
    予備の靴下、手袋、帽子、ジャケット、着替えを携行してください。
    手を保護するために耐水性、絶縁手袋を使用してください。
    断熱性と防水性のあるブーツを着用してください。

  • 頻回な休憩をとりましょう
    1時間に1回など時間を決めて定期的に休憩しましょう。
    その際、着替えをしたり、温かい甘味のある飲料を飲んだりしましょう。

その他の対策

その他の留意点

  1. 担当部門等で災害対応の業務に従事される方は過重労働になりやすいので注意しましょう
    • 疲労の蓄積に対しては休養と良質な睡眠が大切です。
    • コンディションの維持のために、勤務間インターバルを確保する必要があります。適宜、半休や時間休を利用しましょう。
    • 休養を確保することは、被災者・被災部署の支援のためにも重要です。仕事を離れることや気晴らしを行い、軽い運動をしたり、メンタルな面も注意しましょう。
    • 山ほどの仕事に呆然とするような場合には、できることをできる範囲で少しずつという捉え方を共有しましょう。
    • 体調の変化に気をつけて、日頃感じない症状がある場合には産業医やかかりつけ医、保健師や看護師等に早めに相談しましょう。
    • 管理監督者の皆さんは部下への配慮と同時に自分自身の体調や休養も確保しましょう。
  2. 可能な限り、通勤や職場の周囲の環境が安定するまで不要不急の外出や出張を控えること
  3. 大変な時だからこそ自分の持病に留意してください。
    処方を受けている内服薬が切れることによる持病の悪化がないように注意し、できるだけ、主治医に連絡をつけて、薬を入手するか、入手方法のアドバイスを受けましょう。
  4. 浸水した家屋や施設ではカビや細菌が増殖しやすくなります。
    • 汚れを取り除いたうえで換気を十分に行いできるだけ乾燥させることが最も有効です。
    • 消毒薬は汚れを取り除いた上で使用しましょう。
    • 作業時には怪我の防止のために、しっかりとした靴(できれば安全靴)や手袋を使用します。
    • 乾燥してきた際には、誇りを吸い込まないようにマスクを着用しましょう。
    • 清掃がおわったらしっかり手を洗いましょう。(軽食や水分摂取前も手洗いを!)